「でも・・・なんだか今穏やかみたいね」


「・・・変わらないですよ」


「そう?だいぶ、【人間】らしくてホッとするけど」


「・・・産まれた時から人間ですけど」


「じゃあ、訂正。・・・・少し、鎖が緩んだかしら?」



その言葉に視線を走らせれば穏やかに微笑む女神の姿。


なんとなく逃げるように視線を落とすと、言葉を返せないのをコーヒーで誤魔化した。



「安心した。可愛い甥っ子があの弟に似なくて」


「そうですか?複製品みたいに育てられてますけど?」


「全然違うわよ。そもそもあの子と同じなら私とこんな風に話したりしないでしょうね」


「俺だって別に歓迎して招いてるわけじゃないですけど。それに、あなただって単に俺に昊を重ねて母親ごっこがしたいだけでしょ?」


「・・・・・・」



さすがに言葉が過ぎたかとすぐに気がつく。


それでも怒るでもなく微笑んでいた彼女が小さく息を吐くとその言葉を返してきた。



「そうよ」


「・・・・」


「一度母親をするとね、どうあってもその存在を求め、失っても類似したものをそれに見立てて傍にいたくなるの」


「・・・・女神らしからぬ、弱い発言ですね」


「女だもの、男より慈しんで自分の中で育てた存在が愛おしいのよ」


「俺は・・・・あいつの身代わりに息子を演じるなんてしないですよ」


「ふふっ、そうね。まぁ、無理よ。・・・・だって、あなたとあの子は似てないもの」




その言葉に見事反応して表情に出してしまった。


クスクスと俺の反応に笑う女神がスッと立ち上がり鞄やジャケットを手にし始める。



「・・・帰るんですか?」


「仕事あるしね。・・・・・・ケーキ、残りは適当に処分して」



だったら・・・余るほど買ってくるなよ。


どう処理していいのか分からない程その存在感を示すケーキを見つめ、今にも溜め息が零れそうになった瞬間につけたされるその言葉。




「お節介な女の子と食べるとか・・ね」




反論しようと口を開くも捉えた姿はすでに長い髪を揺らす後ろ姿で。


もう、必死になって返すまでもないかと口を閉ざした。


パタリと扉が閉まるのを確認するとその体をソファーに預けて息を吐いた。