ああ、この人のこういう所が本当に嫌だ。


勝ち目がない上に逃げ場すらないからどうにもできない。


含み笑いでまず威圧して、程々になったらその隠している鋭い牙で刺激するように甘噛みしてくるんだ。



「ふふっ、ちゃぁんと・・・お腹がすく様に食事管理してくれる様な女の子でも出来たのかしら?」



きたきたきた・・・・。


予想を外す事もなく悪戯に突っ込んでくるその言葉にチラリと視線を走らせてからコーヒーを口にする。


熱いそれをごくりと一口飲み干すと微笑する女神に返事を返す。



「・・・・・まぁ、桐子さんが思う様な女の子ではないと思いますが、お節介な女の身元保証人になってまして」


「これまた珍しく興味そそられるわ。何の見返りもない他人をあなたが慈悲なんかで囲う筈ないものね」


「使用人程度の利益ですよ」



そう告げて果物がつやつやと光るケーキを口に運ぶ。


生クリームもたっぷりだというのにしつこくない甘さが丁度いい。


いつもならこの程度の甘さでも眉根を寄せて完食はしなかっただろう。


ああ、あれだ・・・・。


あの恐怖のパンケーキで体感した甘さで他のそれは可愛い物だと思ってしまうのか。


子供すら泣かせたあの・・・。


思いだすのは恐怖して泣きそうな秋光と焦る四季の姿。


その瞬間に込み上げてきたものを堪え切れずに噴いてしまった。



「ぶっ・・・・」


「えっ・・・・」



慌てて堪えるように口元を押さえて下を向いたのに、どうも収まりがつかずに小刻みに体が揺れてしまう。


そんな俺にさすがに驚愕の表情を見せた女神が唖然としたまま声を響かせる。



「・・・・・もしかして・・・笑ってる?」


「・・・っ・・・い・・・ぷっ・・・だい、大丈夫です」


「っ・・・うそぉ!!望ってば笑ってるし!やだぁ、写真写真・・・・」


「脅す気ですか?」



変に恍惚とした表情で鞄をあさり始めた桐子さんに、さすがに冷静になって待ったをかける。


元に戻ってしまった俺に対してつまんないという顔を見せると、適当にケーキにフォークを突き刺し口に運ぶ姿。


不貞腐れた子供の様だと軽く呆れ、自分の口にもケーキを放り込んだ。