「・・・・・・四季・・・」
「・・・・・・・・・・望様」
響いた静かなる四季の声にドキリと不安に心臓が跳ねる。
声を響かせた彼女は力なく口元のみ形ばかりの笑みを浮かべ呪いの様に言葉を落とす。
「おやすみなさいませ・・・・・・」
「・・・・・おい、・・・お前・・」
「・・・・私は・・・強い香水の匂いが嫌いです」
閉める直前に四季が放った言葉と苦痛さも感じる複雑な笑み。
知っているでしょ?
そんな風にも取れる四季の言葉に固まって目の前で閉まった扉に初めて四季に拒まれたと理解した。
そう、散々拒んできたというのに逆にそれをされた事はなくて、どんなに俺がそれをしてもこの馬鹿な女は怒らずに同じ事を繰り返すのだと思っていた。
なんだよ・・・・なんなんだよ・・・。
理由も分からず納得のいかない四季の反応に憤りを感じながら暗い廊下に踵を返す。
一歩その足を踏み出して、でもすぐに足の裏に感じた感触にその表情が静かに緩む。
体をかがめて拾い上げたのは四季の耳から外れたイヤリング。
一瞬もう一度扉を叩きそれを渡そうかとも思った。
どうせ・・・・明日も会うか。
踏みとどまり今にも扉を叩こうとしていた手を降ろし俺が思った事。
そう、明日になれば・・・・きっといつもの様にあの馬鹿っぷりを発揮するんだろ。
自分の手の中で複雑な色身で妖しく雰囲気を変える石を見つめ、すぐにそれを握りしめると自室に歩き始めた。
気がつけば逆の手に持ったままだった一輪の花。
どうするか・・・・。
本当はこれを渡すつもりで四季の部屋に寄ったんだったな。
でも、・・・何で?
やる必要も理由もなくて、ただ、俺の役にたったから、こんな零れ落ちた花でもあいつは馬鹿みたいに喜びそうだと思ったから・・・・。
でも、
「馬鹿馬鹿しいな・・・」
そう呟くと持っていた手を緩め音もなく床にその花を落とした。
朝になれば使用人が掃除して片づけるだろ。
そんな考えで自分の視界や思考からその淡いグリーンを掻き消した。