声を響かせた四季は特にその表情に際立った感情は現しておらず、単なる疑問としてぶつけられたのだと判断すると。
「・・・だとしたら?お前に何か影響あるか?」
響かせた返答に四季のグレーがまっすぐに俺を捉え、探る様な視線に何だか気圧され言葉を失う。
だけどすぐにいつもの様に弧を描く四季の口元。
「いってらっしゃいませ望様。・・・・・・その方と過ごす前に何か淡い色のお花をお持ちになるといいですよ」
「・・・・・・読んだのか?」
「望様の利益を出す。それは私生活でも・・・・・望様の私という存在価値はこの能力あってのことですから」
そう言って微笑んだ彼女が持ってきたトレーに食べかけのパンケーキが乗った皿を乗せ入口に歩き出す。
その姿は止まることなく部屋を横切り、入口までいくと俺を振り返り馬鹿丁寧に頭を下げ扉から姿を消した。
パタリと閉まった扉を不思議な感覚で見つめ、何がそんなに違和感なのかを考えてしまう。
でもすぐに答えの出たそれ。
「四季が・・・・四季らしくなく俺に従順だったんだ」
気がついた違和感。
それでもその理由までは考えが及ばずそれ以上は思考を働かせる事もなく着替えをしに隣の部屋に向かった。
疲れた。
車の振動を感じながら無駄な疲労感を覚えた体をシートに預ける。
その疲労はそれなりに欲を求め合った結果でもあるが、大半は興味のない女との共有した時間への疲労。
これでしばらくは間が持つだろうと深く息を吐いて窓の外に視線を走らす。
今日の女も香水のキツイ女だった。
動くたびに香る自分からの匂いに眉根を寄せて、舌打ちを響かせた時に気がついた存在。
反射して車内を鏡の様に映す窓にその淡いグリーンを捉えて振り返った。
シートの隅に落ちているそれは今まで時間を共有していた女に贈った花から零れ落ちたものだろう。
一輪だけ残るそれに手を伸ばし意味もなく見つめ膝の上に置いた。
四季の言ったとおりに淡い色身の花束を渡せば、異常なほど機嫌の良くなった女は扱いやすかった。
珍しくいい仕事をしてきたじゃないかとクスリと笑い、車が家の入口でその動きを止めるとスッと降り立ち歩き出す。