「おはようございます望様」


「・・・・・・・お前・・・、何しに来た?」



不機嫌にまだ眠気の覚めない顔でノックされた扉を開けば、にこやかに微笑む四季がそこにいる。


【何しに】その質問を物語るように四季の手にはトレーに乗ったパンケーキが甘い香りを漂わせていて。


それが鼻を掠めた瞬間に思いだすあの異常な程の甘み。


思わず口元を押さえ眉間の皺を強めると、苛立ち交じりにそれを拒絶する。



「いらん」


「大丈夫です!シロップはご自分でかけていただこうかと持参しました」


「そういう問題じゃない。食べたくないって言ってんだ馬鹿女」


「駄目です!望様は私がおせっかいしないとまともに食事もなさらないんですから」



そう言って怒ってますという様に目を吊り上げた四季が俺の遮りも無視して【俺】の部屋に押し入る。


この馬鹿女・・・・プライバシーとかいう言葉も頭にないのか・・・。


強引に部屋に入った女に苛立ったところで、それをあからさまにしたところでこの女には全くと言っていいほど通用しない事はもう理解している。


だからあえて無駄な言葉も吐かずに不機嫌な表情のみで扉をしめると、何のためらいもなく部屋の中央まで踏み込んでいる四季が声を響かせる。



「望様、これどちらに置かれますか?」


「持って帰って自分で食えよ」



置く場所はない!と暗に示しソファーに乱暴に横たわって存在を無視する。


なのにその存在を示すように傍によると俺を覗きこむグレーの瞳。


少しこの角度から見るのは新鮮だなと思い見上げていればにっこりと微笑み落とされる言葉。



「眠いのなら歌いましょうか?」


「今起きたのにまた寝てどうする」


「ソファーに横になっていらっしゃるから・・・・」


「俺が自室でどう体を休めようがそれは自由だろ」


「勿論です。ではパンケーキは私が切り分けお口に・・・」


「どんだけマナー違反だ馬鹿女」


「もう、ああだ、こうだと逃げ口ばかり。・・・子供みたいですよ望様」



お前にだけは言われたくねぇよ。


内心で速攻切り返した言葉を口にしなかったのは、言ったところでまた馬鹿な反応が返ってきそうだったから。


だから冷めた視線をチラリと向けると深い息を吐いて体を背もたれに向けて横になる。