車のキーをカチャリと鳴らし程よく毒気が抜けた軽い気持ちで車に乗り込む。


扉を勢いよく閉めた拍子にふわり巻きあがった風が自分に絡みついていた匂いも広げ眉根が寄った。



「・・・・やっぱり・・・臭い」



香水の強い女ほど・・・・馬鹿に感じるのは何でかな。


フンっと不快なそれを誤魔化すように鼻を鳴らすと、少しでも匂いを消すように窓を開けて車を走らせた。


入りこむ風と月明かりが心地いい。


いっそ・・・・このまま全て投げ出して走り去ってしまいたいくらいに。


なのに・・・・それが出来ない俺はただの弱者か・・・。


どうにも断ち切れない産まれついて絡まっている鎖に嘆いても、結局無力なままそれに引き戻される。


財力ばかりの孤独な王座に。


さしずめ王宮と言える自宅をその眼に捉えて溜め息をつく。


無駄に苛立ちのまま行動した為に残っている仕事を思い出してウンザリした。


四季が使えない分今日の分くらいは自分の直感のみで判断しようと車から降りると仕事の事を考えながら自室に向かった。


長い廊下を静かに歩き頭で色々な事を思案していて不意に気がつく。


その事実に再び頭を抱えると立ち止ってどうしようかと今来た廊下を振り返った。


書類・・・・・四季の部屋に放ったままだったな。


どうしたものか・・・・。


それでも時間を考えればもう充分に時間は深けてまわりも寝静まっている。


そんな中で四季が起きているわけもないかと道を遡り、感情のままに飛び出した部屋の前で一瞬だけ立ち止まる。


静かに書類だけ持ち去ろうとしているのだからノックをするでもなく扉を開き中に入った。


当然部屋の明かりは落ちていて、内心ほっとするとゆっくり奥に進み目的の書類を探し始める。


全くの無警戒。


何の気なしに書類の束のみを頭に描いて薄暗い部屋を進んでいたから、瞬間的にその姿を捉えた時には馬鹿みたいにビクリと反応した。


思わず声が出そうなのを必死で堪え口を手で覆う。


心臓がバクバクと早鐘を打ち、自分の目には白いナイトウェアに身を包みソファーに寄りかかったまま眠る四季が映る。


その手には俺が放った書類があって、ゆっくりと近づき覗きこむと所々にいつも俺が書き込むようなマークがしるされている。