「おかえりなさい」
「・・・・・・・おい、何だよそのテーブルに用意されてる食事は」
「えっ、望様のお食事ですけど」
「いらん」
会社から戻りいつものように書類片手に四季の部屋に向かえば、扉を開いた瞬間から食欲をくすぐるであろう香りが漂った。
その元をたどって視線を走らせればテーブルに並べられた彩のいい食事。
そして俺ににこやかに対峙する四季。
その笑顔は当然俺がそれを食べる事を疑わず今にもその席に着く事を要求しそうで、あえてそれを無視して突き進むとソファーに座って書類を差し出した。
「四季、今日の仕事だ」
「望様・・・でも、冷めてしまいますよ?」
まただ、少し困った様に微笑む姿。
イライラする。
「四季・・・早くしろ。お前がここにいる唯一の存在理由で存在価値をなくすつもりか?」
その言葉にその笑みがまた消えそうなほど小さくなった。
いや、もうほとんど消えていた。
チラリと用意した食事の方に視線を移した四季がすぐに書類に戻ってそっと受け取る。
そうして隣に距離を保って静かに座ると、スッとその眼をいつもの様に集中させ俺を見つめる。
そうそれでいい。
珍しく自分の思う通りになったと瞬間的に口の端が上がる。
なのに一向に響かないその声に一度書類に落とした視線を再び上にあげ固まってしまった。
「・・っ・・すみま・・ぜ・・・、よめ、・・読めない・・でず・・・」
「・・・・・・・あっ?」
視線を移せばボロボロと子供の様に涙を零す四季が、その顔を拭く事もせずに仕事の放棄を口にする。
出来ない?出来ないとか言ったかこの女。
泣きながら吐き出した四季の言葉に同情なんかは働かず、むしろあきれ果てて書類をばさりと音を立てて落とした。
当然ビクリと反応した四季がゆっくりと涙で潤むグレーを向けてくる。
「・・・・仕事だ。しろ」
「できませ・・・」
「何度も言わせるな。お前がここにいれる理由はその力を俺の為に生かす為だ。つべこべ言わずに・・・」
「だからっ、出来ないんです!!」
なんだ・・・、こいつ。
雇い主に仕事が出来ないってキレてきたよ。