それを見た瞬間・・・・。
噴いた・・・。
子供を泣かせる様な恐怖を与える食べ物って・・・・。
「あ、あきみつ~、ママ頑張ったのに~」
「ないない、ないないよ、ママ」
「ぶっ・・・ははは・・・、子供にまで拒否されて。母親としても落第だな」
思わず噴き出し笑いながらそう告げれば、驚いた表情で俺を見つめ上げた四季がすぐに破顔して満面の笑みを浮かべた。
「望さまはそうやって笑うんですね」
「っ・・・、」
迂闊・・・・、と、言うよりは予測不能だった自分の感情。
こんな風に笑ったのは・・・・それこそ、海里の前が最後だったか?
この家で・・・俺が笑う物なんて、笑う事なんてないと思っていたのに。
調子が・・・狂う。
指摘され、もう反論を返すのも疲れて顔を覆うと背もたれに身を預けて天井を仰ぐ。
すぐに不安そうな四季の声が俺の耳に入りこんで眉根を寄せた。
「望・・・様?」
「・・・・少し・・・黙ってろ」
「・・・・・存在を・・・忘れろと?」
「・・・・」
「・・・・・・分かりました」
俺の無言にそう解釈して立ち上がった気配を感じる。
俺の手にあった皿を抜き取る感覚も分かって、結局食べきれなかった事にも僅かな罪悪感が生じた。
それがまた俺の葛藤を強めるというのに。
罪悪感を他人に感じるという事。
そんな人間味のある感情はこの家には必要が無い。
そうやって育てられてきた俺には一生芽生えないものでよかったんだ。
クソッ・・・イライラする。
複雑な葛藤のまま動く事すら今は煩わしくて、それでも何も捉えないように同じ態勢で不動になる。
そんな俺の空気のせいか、さっきまでの和やかな雰囲気は消え嫌に静かな部屋に人の気配すらその存在を抑え込んでいる。
さすがに、俺が出ていくべきだな。
そう判断してようやく顔を覆っていた腕を外した瞬間、ふわりと入りこむのは四季の声。
でもそれは会話するための物ではなく、譜面の存在するであろう旋律。
四季の子守唄。
椅子に座ったままその声の元を探して視線を走らせれば、流れ来るそれは寝室からであるらしい。
ああ、秋光を寝かしつけているのか。と、頭で思い、しばらくその声に聞き惚れる。