「・・・・30分」


「えっ?」


「30分でこの部屋を出るから急いで作れよ」



そう譲歩すれば嬉々とした感情にそのグレーが揺れ、満面の笑みを浮かべるとこの部屋に不似合いなキッチンに走って冷蔵庫を開ける四季。


何がそんなに嬉しいんだろう?


いつも思う疑問だ。


俺の口からはいつだって彼女を見下した言葉しか零れないのに、その表情には憤怒も悲哀も浮かばない。


四季の表情をいつも構築するもの。


それは【喜楽】


俺には一番縁遠かった物。


今も何やら鼻歌交じりにキッチンに立ち、手際良く作業する姿を見つめる。


誰かが何かを作るところなんかはあまり見る経験も無かったせいか、興味が先走った感情でそれをしばらく眺めていて。


だけどすぐに自分の腕に当たった小さな衝撃に気をとられた。


フワリとぶつかり床に落ちたそれに視線を落す。


屈んでアンバランスに折られたそれを拾い上げて秋光に視線を移した。


小さなあどけない姿にこれもまた極端な、四季が持ち合わせないであろう【無】を携え俺を見上げて不動になる。


その目が捉えるのは俺の手に渡ってしまった歪な形の紙飛行機。


きっと折ったのは四季だろうと、ヨレヨレでとてもじゃないがまともに飛びそうにないそれにため息をつく。


そして床に散らばっていた不要となった書類を拾いあげながら床に座り記憶を辿ってそれを折り始める。


綺麗に、違わぬように折り進め、羽に空気抵抗を受けるようにクセをつける。



『こうした方がよく飛ぶんだよ』



不意に脳裏に浮かんだ声と存在。


まだお互いに子供で、敵意より好意が存在していた時の記憶だと複雑に口の端を軽くあげた。


あの男は・・・、今度は自分の子供にそれを教えているんだろうか?


一瞬の記憶の回想。


らしくないそれから回帰すると、出来上がって手の中にあったそれを、少し離れて見ていた秋光に向って放って舞わせた。


程よいスピードで部屋を横切り飛んで落ちていくそれに秋光の視線が釘付けになりすぐに駆けていく。


長く空を舞ったそれを見つめ、カサリと床に落ちた時に物悲しさを感じた。


それは・・・、今の俺じゃなく、過去の子供だった俺の感情。