「くそぅ、何言わせんだ…、こいつ、このバカ!こっち見んな!」


佐々くんは、私の頭をグシャグシャどころかグイグイ押しつづけると、

そのままベッドに押し付けた。


「ぶはっ!」

「そこから動くなよ!いいなっ!!」


すぐさま、顔を上げたけど、もう目の前に佐々くんはいなかった。

その代わり、


バンッ!!


――え?……なに…?


ガタンッ!!

「きゃあ!」


ガタガタ!!

バンッ!!


――なに?なんなのおっ!?


バーカウンターのほうで、大きな音が聞こえ始める。


「さ…佐々くん…、なに、やってんの…?」


こんな距離から小声で言ったって、聞こえるはずがない。

壁の向こうから、休まず聞こえ続ける破壊音。

固まったまま、

じぃ~…

…っと、クリームイエローの漆喰の部屋壁を見つめてると、

気を失って倒れてるチャラ男の姿が、まるで映画のように浮かび上がってきた。


怒って…る?

これ…、怒ってるよね!?

だって、怒られない理由が見当たらない!!


ゴクリ……


生唾を飲み込む。


「…に…逃げよう…」


本っ気で怖い。

だってさ、一撃で気失わせたんだよ?

いったいあれのどこが、

『手ぇすべった』

なのかが、わかんない!

あんなのムリ。

オンナの子じゃ、勝てっこない!!


こっそり玄関から抜け出そうと、ベッドから降りようとしたところで、


「うぎゃっ!痛ったぁあっ!!」


ひねった右足に激痛が走った。

身をかがめて、咄嗟に足をかばうけど、そのせいで余計にバランスを崩して、


ゴツッ……


鈍い音を立てて、まっさかさまに床上に転がり落ちた。


「…うぅうう~…、い…痛た……、ひゃあっ!!」

――冷たっ!!


「え?え?…なになに!?…氷?」


佐々くんがタオルでくるんだ氷を、私の頬に当ててる。

叩かれて熱を帯びていた頬に、ひんやりと気持ちいい。