ほとんどが興味本位で見てるだけだろうけど、中には真面目な奴もいるからな。


――拉致ってるように、見えなくもないし……


気付くと、すぐ横の見るからに誠実そうなスーツ姿のオトコが、今にも電話をかけようとしている。

警察かよ…めんどくせぇな……


「チッ…」


軽く舌打ちをした。

しょうがねぇな…


「…花美……」


耳元で息を吹きかけるように囁くと、くすぐったそうに肩をすぼめる。

オレの腕を振りほどこうと格闘していた花美の手が、ふと力を失う。

くるんっ…

腕の中で半回転。

左手で花美の腰を支えると、簡単に正面から向き合った。


「え??…あれ?今どうやったの…?」

「ひさしぶりだなぁ、花美…」


がばっ!!

下向きやがった。


「無視ってんじゃねぇよ」


連絡はよこさねぇし。

オレが…、このオレが1回だけメールしたのだって無視したろ!

この3日間、お前が行きそうな場所、うろつくなんてマネ……

オレにそこまでさせといて、絶対に逃がさねぇからな!!


ブルブルと、腕の中で震えてる。

無言で必死に首を振って、最後の抵抗を見せる花美の細いあごを、

指でクイッと、引き上げると、そのまま唇を落とした。


「……ん…んん~っ!」


――花美っ……


抵抗を抑えつけて、奪ったキス。

ちょっとした罪悪感に、深いそれは躊躇するけど、

次第に、硬く緊張した花美のカラダから、力が抜けていくのを感じる。

震えも止まって、オレの腕の中にすっぽり収まってる花美が、

なんか…


――すっげぇ…カワイイんだけど!


止まらなくなりそうで、慌てて離れた。


「さてと…」


花美の顔をオレの胸に押し付けるように抱きしめた。

こんなカワイイ顔、これ以上誰にも見せたくなんか、ない。

それと、とりあえず拉致疑惑だけは、晴らしておかねぇとな。

口元に残ったリップを親指で拭いながら、ギャラリーに向かって宣言する。


「これ、オレのですから」


目の前の男があわててスマホをしまい込んだ。

それを確認し、その場を去る。


まいったな……

なんで、こうなるんだよ……


振り向くと、オレに手を引かれながら、ヨロヨロと花美がついてきている。


優しくしたいのに……

うまくいかない……