オレは頭を抱えて机をにらむ。

そんな姿を憐れんだのか、頭上から成久の声が降ってきた。


「“霧里花美”(きりさと はなび)、聖心女子の1年生だよ」


そうか、霧里って言うのか。


「家はさくら通り沿線の…」

「家は知ってる。昨日送ってった」

「送っ…、お前が?女を?…マジか~…」

「……次」

「はいはい」


成久の情報によれば、

昨日、出会った交差点付近より東側、三日月橋から皐月通り、海沿いの蕨ヶ丘、みなと公園、あとは聖女高の通学経路でよく見かけられてるらしい。

噂は花美の容姿以外、ろくでもないものばかりだった。


性格最悪、

オトコはとっかえひっかえ、

誰とでもヤるとか、

貢がせて、ポイ捨てだとか……


いや、ありえねぇだろ…


『ごめんね?…ごめんね、佐々くん…』


謝ってばかりの、

花美の、どこか自信なさ気な甘ったるい声。

泣いた顔、

たかがキスで、震えてたカラダ……


「…佐々?あくまで、噂のレベルだから」

「わかってる」


そんなこと、オレが一番わかってる。

あの…バカッ。

また性懲りもなく、他のオトコに声かけてんじゃねぇだろうな?

花美の別れ際の言葉を思い出す。


『佐々くんのコトなんか、絶対にスキになったりしないもん!!』


ふと浮かんだ、知らないオトコの側に立つ花美のイメージに、胸がザワつく。


「……」


花美から、連絡なんか来ない…

意地を張ってる場合じゃない……、かもしれない。