<side 花美>

特に何かを考えていたわけじゃないけど、ぼんやり歩いてたから、アパートを通り過ぎそうになった。

レンガ色の二階建てアパート。

佐々くんと最後に会った、あの日。

ついうっかり、スキだらけで歩いてた私も悪かったけど、

イヤだ!…って、言ってるオンナをよってたかって捕まえようとするほうが、もっと悪いよね?

ナンパしてきたオトコ達に追いつめられたとき、


“あんたっ!人の彼氏とってそんなに楽しいの!?”


いつか見た、赤みがかった茶色の髪が目の前にあられた。

長身にショートカットの、キリリと凛々しい美少女。


『お姉さまぁっ!?』

『追われてんの?…あんたには借りがあるし、助けてあげる』

世間ってばホントに狭いなあ……

どうも、お姉さまの友達の彼氏を、私がとったって話だったらしいんだケド、

あのあと、その彼氏を問い詰めたところ、私の予想通り別れ話に利用していたらしい。

誤解から私をひっぱたいちゃったこと、まだ気にしてたみたいだった。

お姉さまの家にお世話になって、もう1週間。

でも、まだ1週間。

慣れないで、すぐこうやって行き過ぎちゃう。

それは、きっとここが、本当は私がいていい場所じゃないからだと思う。


スーパーでお買い物してきて、重くなったエコバックを抱えなおすと、アパートの階段を登って鍵を差し込んだ。


――あれ?開いてる?


ドアの隙間から、お姉さまのローファーが見える。


――学校早く終わったんだぁっ!!


もう、世間は夏休みなんだケド、お姉さまは高校3年生ということで、受験対策の課外授業で学校に行くことが多い。


「お帰りなさぁいっ!!今日、お買い物でねっ!……ネコがいて……」


バンッ!!


勢いよく中に入った瞬間……


ボタ!!ボタボタッ……!!


私の手から勢いよくエコバックが床に落ちた。

たまねぎとかにんじんが、ゴロゴロ音を立てて転がる。



――…え?


足が床にへばりついて動かない。

ううん。

足だけじゃない。

金縛りにあったみたいに全身動かない。


――??誰?


知らないオトコの人……と、

目があっちゃった。