「功、何食べたい?」


「んー、何でもいいかな。」


そう言って功は私の手を握ったまま、
鼻歌を含み、
ぷらんぷらんと私の腕を揺らす。


本当に呑気だなぁ。

浴衣から覗く白い腕、そして触れるたびシトラスの香りと、熱を持つ手。



「なんか機嫌良いね。何かあったの?」

「ん?そうかな?」

「うん。そうだよ。」


そんな他愛ない話をしてたこ焼きを買い、
あのベンチに座る。


「ここもあんまり変わんないね。」

「うん。そうだね。」

あたりをぼんやりと見渡す。


「あれ?梨乃ちゃん?」

そう私に声をかけたのは…


「え?阿久津先輩!?お久しぶりですね!」


浴衣姿の阿久津先輩。
これは…レアだな。

功もこれでもかってくらい格好良いんだけど
それとは違う格好良さがある。

なんだろ?爽やかさ?


「お!梨乃ちゃん可愛いね。よ、功。」

すると功は素っ気なく会釈する。

「またまた、褒めても何も出ませんよ?
今日は誰と来たんですか?」



「あー雪と来たんだ。
たこ焼きか〜うまそうだね。」


「三宅先輩ですか?会いたいなぁ。
あ!一つどうですか?」

そういって一つ刺して差し出す。

すると先輩は私の手をそっと握り、パクッと一口でそれを食べ、「うまっ」なんて言う。


「えっ、」



普通爪楊枝ごと受け取ってからでしょ?なんて事を思い、かなり困惑する…

握られた手が…温かい。

「ん?どうしたのかな梨乃ちゃん。」

そう言って笑うあたり、先輩は明らかに確信犯だ。


「も、もう!先輩なんか、知らないです!」


「あれ?怒っちゃったか…」


なんて顔を覗き込む…

あんま見ないでほしい。
功もいるのに、誤解されちゃう。
先輩はそれが目的なんだろうけど。


「あの、先輩。三宅先輩があっちで呼んでますよ?」

功が割って入るようにその方を指す。


「げ、」


「あれ?梨乃じゃん!」

「先輩!浴衣可愛いですね!とっても綺麗です!」

「て、照れるなぁ、
てゆーか七瀬、二人の邪魔しちゃダメでしょ?
ごめんね、また部活でね!」


そう笑顔で先輩の耳を引っ張り、どこかへ行ってしまった。


「なんか…忙しい人だね。」

「うん。そうだね。
私ゴミ捨ててくるね!」

私は空になったたこ焼きのを持ち席を立つ。

その瞬間、


グッ

と掴まれた腕。

カランッと落ちるゴミ。




気付いた時には、既に功にすっぽり覆われていて、
背後からシトラスの匂いに包まれる。


「こ、功…?何…して。」




その腕は少し強引で、
動こうとしても抑えられてしまう。

改めて力の差を見せつけられた気分だ。




でも功で頭がいっぱいになって、
私の心が、全てが満たされていく。




「僕…梨乃が好き。」


幻覚かと思われるほど、私をドキッとさせるその低い声。

いつもとちがう…真剣な功。


「え?
急にどうしたの?私も功が好きだよ?」


「違う。
梨乃のとは違う。」



いつもと違って、真っ直ぐな功の声。

「功…?何が…違うの?」




「僕は、
梨乃が誰とも付き合わないっていうから、
かなり落ち込むし、

他の奴と話してるとこれでもかってくらい、イラつく。

でも梨乃が楽しそうに笑ってると嬉しくて、愛おしくなる。


でも、もう我慢できない…
ごめんね梨乃。
もう幼なじみでいられない……


僕はそういう意味で梨乃が好きなんだ。」





私を抱きしめる力が強くて……苦しい。

私を功が好き?
そんなの夢心地でしかなくて、
信じられない。


両想いって事になる?


「嘘…」

「嘘じゃない。こうしないと分からない?」


するの功は、くるっと私の向きを変えさせ…
微笑んで…

それから…



ちゅっ


私にそっとキスをした…