「早苗、話って何?」


「ね、とばちゃん。私に隠してることない?
私に言ってない、重要な事。」

早苗は真剣な表情のまま、
笑顔を見せず言う。


まるで私の心の奥を、覗くように。



「隠してる事?そんなの……」


アレしかない。
私が功に恋愛感情を抱いている事。



「功くんのこと、好きなんでしょ?」


早苗は少しきつめに言う。
やっぱりその事か。そろそろ言わなきゃいけなかったんだろうな。


「…うん。ごめん。なかなか言えなくて。」


「本当だよ、遅いよ。」


「それは、…私なりの気遣いであって…。」


「違うよ!なんで早く気づかなかったの?
そしたらもっと前に付き合ってて、
うちが辛いすることも無かったのに。」


早苗の目が、潤んでいる。


「ごめんっ 、でも、功は誰とも付き合わないから。功には、好きな人がいるの!」


「え?」


また、失態だ。
早苗も功のことが好きなのに。



「っごめん。今のは忘れて。」


「知ってたんだ。
じゃあどうして私に教えてくれなかったの?
どうせ、そんな事知らず追っかけてる私を嘲笑うように見てたんでしょ?」


「違うっ !早苗、それは違うよ!」


「そんなの知ってるよ!
梨乃ちゃんは、良い子だからそんな事しないの知ってるよ!」


「早苗…?」

「ごめん、訳わかんないよね。ごめんっ 」


そう言って早苗は席を立ち、足早にどこかへ行ってしまった。

床にはいくつかの水滴。早苗の涙だ。


「早苗…
じゃあ私は、どうしたら良かったの?」

好きな人が友だちと同じ。

よく少女漫画でありがちなパターンだった。


でも実際にあると、こんなにも複雑で辛い事だなんて、思ってなかった。

友達には幸せであってほしい。

だけど、

自分じゃそれを喜べない。




私はその場で頭を抱えた。


その瞬間、頬に冷たい感触が走る。

「冷たっ!」


「ほら梨乃ちゃんっ。これどうぞ。」


そう言ってさっきまで頬に当ててたアイスを差し出すのは、


「阿久津、先輩…?」

先輩は、私に綺麗に笑ってみせた。
そして、アイスを受け取る。


やっぱり…聞いてますよね。さっきのやりとり…。


「もしかして、さっきのやり取り、聴いてました?」


「うん。」


「やっぱそうですよね。」


「うん。」


冷たいアイスを一口頬張る。

「……このアイス、美味しいですね。」


「うん。」


「先輩、さっきから うん。 しか言ってないですよ?」


「うん。」


「ふふっ」


「あ、やっと笑った。
梨乃ちゃんはやっぱり笑顔が一番だよ。
だから元気出して。俺がついてるしさ。」


「先輩…ありがとうございます。」


「それに、功がダメだったら俺のとこくれば良いじゃん?」


そう言って
先輩は私の頬をぐにゃっと動かす。


「せ、先輩、いひゃいですよ?」


「ふっ、
いひゃいって…なんて言ってるのかなあ?
ほら、もっともっと…。」


そう言ってもっと動かす先輩。

「い、意地悪…」


きっと最大限元気付けさせようとせてくれてるんだ。

この人はどうしてこんなにも心が広いのだろうか。


この優しさには私も敵わない。