「お願いします!」


私は早苗の前で手を合わせる。

早苗は確か小学校の時から
チアに入っていて、
ダンスも習っていて、
これほどピッタリな人材はいないんだ。


「えー、やだよ。
だって私もう辞めちゃったし。」


「そこを何とかっ !あ、功もいるよ?」


我ながら功で誘うとは…卑怯だと思う。



「えっ!
そっか、功くんも練習くるんだもんね〜♡
もしかしたらもっと仲良くなれるかも!」


…仲良くしないで。
それが本音だけどこればっかりは仕方ない!


「じゃあ良い?」


「うん!も☆ち☆ろ☆ん☆」


「うわぁーすごい機嫌の上がりよう。
流石の友達でも引くレベルだわ。」



「ぬあーもう梨乃さん、そんな事言わない言わない!私が何人か人集めとくよ。」


「本当に!ありがとう早苗!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


放課後、近くの市民体育館を借りて私たちはダンスの練習をする。
練習というか振り付けを覚える段階なんだけど…


学校のは、部活でよく使われててなかなか取れないんだ。



構成はこうだ。
まず音楽が男の人の時と、女の人の時があるから、それが交互になるのと同様ダンスを踊っていく。


女子はチアリーディングの類に入るものを。
男子は簡単なヒップホップダンス。

そしてその後は、
男女ペアで行う社交ダンス。


振り付けも決まって、男の人が女の子を軽く持ち上げるのや、
喧嘩みたいなコミカルな演技も含まれている。


本格的ではないから、ゆるくできるのも
良いところ。

でも団員は凄くて、バク転もするんだ。
功のバク転、少し楽しみだったりして。


女子団員も、中心的な位置が多いから、
ミスは許されない。


「1.2.3.4.
5.6.7.8」

早苗が中心となって私たちの指導をしてくれる。


「とばちゃん!こうじゃなくてこうするの!
ほら、もっと腕ピンとして!」


「え、こ、こうですか?」


「ぬあー!もう!全然違う!」


そんな怒らなくても…
一生懸命してるのに…



辺りを見渡せば、
花音先輩も上手いし可愛いし、
それに渡辺先輩やけにキレッキレだし、
お手伝いの三宅先輩も、経験あるみたいだし…



もう無理だよ…


でもここで諦めたらただの根性なし。

よし。頑張る!


そう気合を入れた瞬間だった。

ふと視線に入った功。



そしてふわりと上がる体。
華麗な一回転。




その瞬間パアッと歓声が上がってみんなが功に注目する。




私もそれを見た瞬間、胸がギュってなって、
すごいなってなって。

また頭の中が功でいっぱいになって…


でも、

功はいつも私にしか見せてくれない爽やかな笑顔で色んな人とハイタッチを交わす。



それを見た途端、功がすごく遠く思えて。


なんか、辛くて…


いつもそうだ。



功がいい点数取っても。

功が沢山の子からチョコもらっても。

功がバスケでシュート決めても。



ほんとは喜ぶべきなのに半分そう出来ない自分がなんか醜くて。



「ごめん、早苗。私ちょっと…。」


私は、体育館の外へ出る。


「え?とばちゃん?」


そう私を呼ぶ早苗も無視をして。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


玄関を出て
そこら辺にあった石段に腰掛ける。


「私、全然だめだ…」


そう呟いてその場でうずくまる。
自分はどうしたいんだろう。
それも分かんない。


「梨ー乃っ。」


そんな私を呼ぶ、
優しくて、低くて、心地の良い声。



そして私をふわりと撫でる。
大きくて広くてなんでも受け止めてくれる優しい手。


「…功、、」


「大丈夫。何も話さなくていいから。」


功はいつものように呑気にそう言って。
うずくまった私をそのまま抱きしめた。



ぎゅって。



それだけで、息詰まっていた気持ちもどこかへ飛んでいって私を包み込む温もりで心が満たされていく。



「功…功っ…」


咄嗟に溶け出すように溢れる涙。
そして安心感。
私は愛おしい彼の名をそう呼び続ける。



「梨乃。大丈夫だから。」


功は
きっと私が泣いてる理由を知ってるんだ。

ずっと功は私を見ててくれているから。
功は私の事を分かっててくれるから。


功はしばらくの間、
私が落ち着くまでそばにいてくれた。


「ありがとう。
もう大丈夫!私、頑張るから。」


「うん。頑張っておいで。
梨乃には僕がいるから。」


「ごめんね、服、涙で濡らしちゃって。」


「ううん。
梨乃が元気になったんなら、
それで良い。」


「功、大好き。」


「うん。僕も梨乃が好きだよ。」


功は私をしばらく見つめ、阿久津先輩たちの方へ戻っていった。