「あ!梨乃、先輩大丈夫だった?」


早苗は眉間を少し寄せて心配そうにする。


「うん。
テーピングまでして、今休んでるよ。」



勿論、先輩にキスされたことなど言えやしない。




「そっか。じゃあタオルお願いしていい?」


「うん!任せて。」


そう言って無理に笑ってみせた。

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「功、お疲れさま!」


「うん。梨乃もお疲れさま。」


そう言って二人で校門を出て行く。
今はもうすっかり夕方。



「夕日綺麗だね。」


「うん。梨乃の髪って色素薄くて綺麗。」


「そうかな?」


功は私の髪をすっと解いていく。

その細くて白い指は、絡まるとなく綺麗に抜けていく。

そしてぶつかる視線に、思わず顔を伏せてしまった。

あんまりにも優しく微笑むから。


「あんまり…見ないでください。」


「どうして敬語?」


「え?な、何となくかな。
ねえ。功、ぎゅってして。」


「珍しいね、梨乃からなんて。」


功はそう言いながら、
私をそっと抱きしめる。

その瞬間ふわっと香る功の匂いと、
徐々に強くなってくる功の力。


「功、離さないで。私から離れないでっ 」


私は功の背中に手を回す。
その広くて
これでもかってくらい愛おしいその背中に。


ふと思い出してしまった、お父さんのこと。
そして、
意識とは別に出てしまったその言葉。



「梨乃。なんかあった?」


耳元で功は優しく囁く。
その声に思わず頼ってしまいたくなる。


喉まで好きって2文字が来るんだけど、

功は誰とも付き合わない。


それを思い出すと、
また飲み込まれて言えなくなる。


「何でもない。でも…」


「でも?…」



「気づいてよ。功のばか。」


私はそう不貞腐れた。



「ば、ばか…?
梨乃も気づけよ。ばか。」


「え?何を?」


「さあなんでしょ?」


「この前功のプリン食べちゃった事?」


「え、食べたの?ま、良いけど。」



「違うの?」


「うん、違う。」