阿久津 七瀬 side

「あーあ、本気で好きだったなぁ。」


気を使って体育館を後にして、俺はそんな事を呟く。


「何というか……
先輩の笑顔が嘘っぽいな…と。」



そんな事言われたの、梨乃ちゃんが初めてだった。

そんな事見抜けたのも、梨乃ちゃんが初めてだった。



そしてこの子はどういう子なんだろうって興味が湧いた。


最初は甚だ思ってなかった。梨乃ちゃんの事が好きだなんて。


でも分かったんだ。梨乃ちゃんがそのことに気づいたのも、人をちゃんと見ようとしてるからなんだって。



俺は正直に言えば、かなりモテる。
顔も整ってる。


だから中学の頃から、色んな彼女を作っては別れて。そんな繰り返しだった。



色んな女から、別れた時に言われたんだ。

「七瀬くんはそんな人のはずない!」って。


「初めて会ったときから、ずっと優しい人だと思ってたのに」って。


「期待外れだった。」ってさ。


何でそんなにも外見で判断できるのか。
そんなの分からなかった。

でも、かなり傷ついた。



顔だけの人間。そんな気がして、自分がいつしか、空っぽに見えた。



でも梨乃ちゃんは、俺の中身まで見ようとしてくる。

探りを入れてくることもあれば、
様子を見て俺の気持ちの変化に気づくんだ。



今までの女の子とは、違う。


そして…俺を見てくれることに喜びを覚えた。


梨乃ちゃんが……好きだったんだ。