「ねえ梨乃、帰ろうよ。」


放課後、悪びれることもなく声をかけてくる功。

この…能天気め。
私を甘く見るんじゃない…



「……。」



私は功を無視して、日誌に手をかける。



「…何で無視するの?」



「……。」


私は功を無視して、ペンを手に取る。


「ねえって。」


功は私の手を握り、作業の邪魔をする。


功の目が……潤んでるんですけど?

これって反則じゃないですか?

可愛すぎじゃありませんか?




「日誌書くの。邪魔しないで。」


でも私は心を鬼にして、その手を振り払う。



「梨乃が……冷たい…。」


ねえ、どうしてそんな弱い声だすの?
私はその声を聞くと、甘やかしてしまうんだ。



「っ……。」



「梨乃なんで怒ってるの? 僕のこと嫌いになったの?梨乃…?」


嫌いになんか…なるわけないじゃん!
心の中で割と強く応答する。


「梨乃……
日誌手伝うから、僕に冷たくしないで?
かなり……傷つくんだけど。」


‘手伝うから’

ようやくでたそのワード。

遅いよ。

でも……許してあげよう、かな?


そう気持ちが傾いたらもう私の負け。
やっぱり功ともっと近くに居たくなって…



「功っ…!」


席を立って思いっきり功に抱きつく。



慌てるもしっかり受け止めてくれるその腕。
やっぱり……好き。



「え?どうしたの梨乃?」


「功、好き。」


「あ、ありがとう?…ね、大丈夫?」


「手伝うなんて…遅いよ。
今日ものすごく頑張ったんだよ?
功、全然起きてくれないし気づいてくれないし、私の事知らんぷりだし。」


「……だから怒ってたの?」


「当たり前でしょ?ばーか!」



「そっか……梨乃ありがとう。
今日1日、よく頑張ったね。」



そう言って功は私の頭を撫でる。

上から目線のその言葉。
だけど、怒る気なんかしなくてむしろ功らしくて落ち着く。

撫でられた頭がくすぐったい。



「私も冷たくしてごめんね。」


「僕もごめんね。」


やっぱり……私は功に甘い。
でも功はこんなんだけど私に優しくしてくれるし、大切にしてくれる。


私に無視されただけであんなに慌てて……

私に、溺愛なのだ。






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