オープニングコール。学祭のスタートだ。


私は浴衣に身を包み、早苗と教室でウエイトレスをする。


功と西田くんのペアで、カウンターでの受付を担当している。



功の前では絶対に言わないけど、和装がとっても似合ってる。

深い藍色の生地は爽やかで涼しげ。

白い肌も、かっちりとした胸元も、男の子なんだなって感じられる。


今も、「お写真良いですか?」

なんて、
色んな女の子から声をかけられてて、私がかなりノイローゼになっている。


「功は私のなの!」

ってあの中に入って言いたいほど。
でもそんな勇気も、自分が功の彼女である事にも、自信が持てない。


きっと、こんな地味な子が?とこ思われてるんだろうな。



「どうしたの?」


「え?」


「いや、梨乃がボケーとしてたから。」


「嘘、ごめん早苗。」


「ま、良いんだけどさ、不安なの?」

早苗は功の方を見る。

「うん。不安。」


「…そっか。大丈夫。功は梨乃の事しか見てないから。」


「…ありがとう!」



「あ、梨乃ちゃん!来たわよ!」


そう私に声をかけてくれたのは…

「あ!ルナさん!ありがとうございます!」


上品なワンピースを
着こなしているルナさん。


「あら、浴衣可愛い!」


「そうですか?ありがとうございます!」


そして軽く他愛ない話をする。


「ルナ……?どうしてここに?」


「に、兄さん!遅いよ。ずっと待ってたんだからね。」


これで、役者は揃った。私は二人の腕を引き、廊下へと連れ出す。



「梨乃ちゃん?どうして海斗が? 言ったよね、私…もう会いたくないって。」


「えっと…とりあえず、ごめんなさい。
でも、ちゃんと話して欲しくて!」


「…ルナ、ごめん。梨乃が勝手なことして…
だけど…一度俺と話してくれないか?」


今まで見た事のない兄さんの真剣な眼差し。
お願い!ルナさん!


「分かった。まず、場所を変えましょう。」


そう言ってルナさんたちは、学校を後にした。


きっと…大丈夫だよね。


だってルナさんはまだ兄さんの事が好きで、
兄さんもまだルナさんの事が好き。


うん。絶対大丈夫。


ふと、肩に置かれたあったかい手。


「梨乃、よく頑張ったね。」


そう言って私の頭を撫でるのは…


「うん!私頑張った!ありがとう。功。」


すると功は綺麗に笑ってみせた。