そしてなぜか空き教室に連れてこられ、
手を離される。


「ど、どうしたの?功?」


功は教室を出てから、
一言も言葉を発さない。



そして、
とぼとぼと歩いて一度は離れた距離を詰めてくる。


響くのは功の規則正しい足音と、私のおぼつかない足音。


「功…?」


功は目を合わせることなく、
こちらに近づく…



背中にひんやりとした感覚が走る。
後ろにあるのは壁。



もう逃げ場なんて……ない。


案の定、顔の直ぐ右にはには腕。
左腰のすぐ近くに功の足が当てられ、完全逃げ場がなくなる。


距離があまりにも近くて、功も何も話さないし、でも真っ直ぐ見つめられて、
ドキドキが…この上なく止まらない。


「梨乃。」


「はい!な、何でひょう?」


……しまった。噛んだ。
帳さんはいつかも話したように、サ行が苦手なのである!


「ふはっ…何でひょうって…」


クスリと笑う功。良かった…少し緊張が解け胸をなでおろす。


「梨乃。」


「は、はい!」


「お仕置きね。」


「は、はい?…ねえ功、聞いてるの?
おーい…ってんっ」



突然落とされる三度目のキス。
功が
あまりにも強引で…でも優しくて…甘い。


目の前が功でいっぱいになる。


息が続かなくなって功の肩をトントンって叩く。
でも功は止めてくれなくて私の髪を撫で、それを続ける。



「んっ…はぁ、」

唇が離れても、それはまだ熱を持っていて…


「よし。お仕置き完了。」


功はそう言って私の頬を優しく撫でた。
さっきまでの強引な功じゃなくて、
いつもの能天気モードの功。

そして、どこか余裕たっぷりの功。


「…何のお仕置きだったの?」


「え、分かってなかったの?」


私はコクンと頷く。


「隙がありすぎるんだよ、梨乃は。
ほら、武島に絡まれてたでしょ?
あーいうの止めて。」


「何で?」


「はあ?」


「だってあれは冗談だよ?」


「だとしてもだよ。
…ペース乱されるんだよ。あーゆうの見ると。」


「…?」


「だから、嫉妬するの。僕も。」


「嫉妬…?分かった!気をつける。
功も嫉妬するんだね。いつも何かしら余裕たっぷりだから。」


「いや、そんな事ないよ。
梨乃見てると、余裕なくなる。」


「本当ですか?功さん。」


「本当ですよ。おバカな梨乃さん。」