集めた情報によると。

留加は『犬族』の“支配領域”の一つ、“第五東北領域”にあるブラックヴィレッジの出身で、七歳の時にはすでに同“領域”内のコンクールで優勝できるほどのヴァイオリニストだったらしい。

父親を五歳で亡くし、母親とも九歳で死別。その後は、親類に預けられたり施設に入ったりと、北から南へと居住地を転々と移す。
そして、一ヶ月ほど前からマロンタウンのある“第二中央領域”に住むようになったという。

義務教育を終えたのちは、ヴァイオリニストとして生計を立てており、実際、何度か演奏会も開き、評価も上々だったようだ。

しかし、本人は気まぐれに依頼を受けては弾く程度の意欲しかなく、特定の楽団に所属することも、定期的に演奏会を行うこともなかったとのことだった。

(その経歴の中で、唯一、留加にとって両親以外では、特別であったに違いない人物)

留加は《彼女》の所在を知らなかったようだが《彼女》は今、この“第三劇場”で“歌姫”になっているという。

───舞台では、銀色の髪の少女が『赤ずきん』を演じていた。
歌唱力はそれほどでもないが、はっきりとした語り口調と洗練された物腰が自信に満ち、観る者を圧倒する。

(なるほど。これが『王女』の実力というわけか……)