「いやいや、遅くなってすまんねぇ。歳をとると、どうも足腰の調子が思うようにならんでなぁ。
……おぉ、そこの嬢ちゃんが、新人のナイチンゲールじゃな」

白髪に長いあごひげ、背骨の曲がった老人が、片足を引きずって現れた。
茶色の瞳で未優をとらえ、歩み寄ってくる。耳には、星型の銀色の“ピアス”があった。

「猫山未優です。よろしくお願いします」

「ほう……話には聞いておったがイリオモテのお(ひい)さんらしいの。
どれ」

立ち上がって挨拶(あいさつ)する未優を、あごひげをしごきながら見ていた手が、上がる。

「っ!!」

ペタペタと、その手が未優の胸を確かめるように、さわっていく。場にいた全員が、氷ついたように動きを止める。
未優はパニックを起こした。

(ななな、何っ、これ、ナニッ!? あたし今、何されてんのっ……!?)

そんななか、『獅子族』の老医師獅子堂(ししどう)(まさる)が嘆かわしいといった表情で、首を横に振った。

「いかんのう……未優嬢ちゃん。
お前さんは、もっと自分がおなごだってことを、意識せにゃならん。常に雄の視線にさらされているってことをな。

黙って男に(チチ)触らせとっちゃ、いかんだろ。『このエロジジイ、何しやがるんだ』くらい、言わんでどうする?
その点、響子嬢も涼子嬢も、すぐに鉄拳が飛んできそうな勢いの罵声(ばせい)を、ワシに浴びせてくれたもんじゃがなぁ。

どうやら嬢ちゃんは、実社会の経験値が、同年齢くらいのおなごに比べて低いようじゃな。
おおかた、一族の貴重な(メス)として、大事に大事にされてきたんじゃろ」