「そろそろ来るはずだけど……」

つぶやく唇には、艶やかな深紅のルージュが引かれている。結い上げられたハチミツ色の髪といい、大人の色気を感じさせる女性である。
一見してブランド物とわかる眼鏡が、未優にはうらやましいほどの知的雰囲気をかもしだしていた。

「呼んで参りましょうか? 何しろご高齢ですし……」

清史朗の申し出に、涼子は眉をひそめた。

「あのヒヒジジイ、もとい、獅子(しし)ジジイにそんな配慮は無用よ」
「ですが……」

(……なんか、今、外見と不釣り合いな単語が、もれ聞こえた気が……)

知的美女らしからぬ発言に驚いていると、それに気づいたらしい涼子が、取り繕うように微笑んでみせた。

「未優。あなた、今までピアスの交換は、したことがあって?」
「いえ、生まれた時から、このままです」

『種族識別』のための“ピアス”は、生まれてすぐに付けられたのちは、基本的に生涯取り外すことはない。

特殊な金属加工が施してあり、無理に外そうとすると、命に関わるような信号をだす仕組みとなっているからだ。

しかし、ごくまれに機能の低下や不良が起こり識別が不可能となるため、交換を余儀なくされる場合がある。

「そう。じゃ、今回が初めてとなるのね。
大丈夫よ。ウチの専属医、性格は難ありだけど、腕は良いから」