(あたし、自分のことばっかりで……)

留加は、ヴァイオリニストだ。
己の技術をもってして正当な報酬を得ることは、当然の権利のはずだ。
趣味で弾いているのではないことくらい、未優にだって解っていた。

(初めから……本当は、あたしがきちんとしとかなきゃ、いけなかった)

それを慧一が、未優の代わりにしてくれていたのだ───無知な自分に代わって。

†††††

家に戻った未優は、別棟にある慧一の部屋を訪れた。
執務机を兼ねたそこについていた慧一は、未優の顔を見ると、手にした携帯電話を置いた。

「……薫と一緒だったそうだな。何か収穫はあったのか?」
「留加の住所教えて! 知ってるよね、もちろん」

意気込んで尋ねる未優に、慧一は息をついた。

「知ってどうするんだ」
「ちゃんと謝りたいの! あたし……留加、引っぱたいちゃって……」
「……短絡的だからな、お前は」
「小言はあとで聞くから。住所!」

手を差し出して迫る未優に、慧一は頬づえをついて横を向く。

「今から留加の家に行くっていうのは、俺は勧めんぞ。無駄だ」
「もうっ、意地悪しないで教えてよ!」
「……五番ゲートだ」
「え?」

コツンと、慧一が机を叩く。未優を見て、ちょっと笑った。