「あたしがその“地位”に就いちゃうと、“第三劇場”に今いる“歌姫”でそんな状態に陥った人が困るってコトだよね?」
「え?」

今度は薫が驚く番だった。そういう視点で、薫は考えてなかったからだ。

「だって、生活のために“歌姫”になったってことは……嫌だからって、簡単に辞められないわけでしょ? つらくても、続けるしかないんだよね?

そんな時、娼婦っていう(かせ)から外れて働ける“地位”があるなら、その方がいいはずだもの。だから、今の『禁忌』の座は、そんな人が就くようになってるんでしょ? 違う?」
「──……違わない」

驚きに目を見張っていた薫は、次第にその顔に笑みを浮かべた。
響子は未優を馬鹿だと言っていた。むろん、親しみをこめての意味もあるだろうが。

しかし、本当に彼女が馬鹿だとしたら、こんな言葉はでてこない。
与えられた情報が圧倒的に少なかっただけで、それさえクリアすれば、きちんとした【解答】を導きだせる【心】をもっているのだ。

「あたしは、その覚悟をもって“歌姫”にならなきゃいけないんだね。
他の誰かを犠牲にするかも知れない、それでも自分の望みをつらぬくんだっていう、覚悟を」

未優は言いながら、別れ際の響子の言葉を思いだす。あれは、このことを指していたのかもしれない。

そしてまた、未優は思う───留加のことを。
留加が自分に内緒で慧一と『契約』していたのを、責めてしまったことを。……あれは、筋違いな非難だ。