「もちろん、そこまで差し迫った者ばかりじゃないだろうけど、でも、それほどの違いはないはずだよ。
生活費や借金の返済───稼ぐ手段として“歌姫”になるっていう者がほとんどだってこと、君は知っておいた方がいい」

薫の碧い瞳に、怖いほど真剣な光が宿る。未優は呆然と、彼を見返すしかなかった。
自分の知っている『世界』との違いに、思考がついていかない。

「そして、そんな事情で“歌姫”になって、その才能が花開いたとする。
けれども、娼婦という稼業の中で心ない客によって性的な心的外傷(トラウマ)を負わされたり、また、性病にかかってしまったりする“歌姫”も出てきたりした。

そういった経緯(いきさつ)から“劇場”の経営者たちが、素質ある者を惜しんで本来は“純血種”が就いていた座───『禁忌』の“地位”を、与えるようになったんだ。

だから現在、『禁忌』になる者は、性感染症のキャリアか、性犯罪被害者のどちらかなんだよ」
「それが今の“劇場”での常識、なんだ?」
「そうだよ。そのくらい長い間、“純血種”の“歌姫”がいなかったって、ことなんだけど……」

ちらりと、薫は未優を上目遣いに見た。この事実を知って、未優が『禁忌』の座に就くことをどう思うか、少し心配だった。
───『禁忌』になるということは【そういう目で見られる】ということだ。

だが、未優は薫の危惧(きぐ)した方向とは、まったく違うことを気にした。