“純血種”に与えられる“地位”という言葉に、未優はホッとする。
『女王』以外には与えられていない「公娼免除」なる特権は、なんだか「(ずる)」して“歌姫”になるようで、気が引けたからだ。

「でも、現在は少し様相が違うみたい。
ま、そもそも“歌姫”になろうっていう“純血種”自体が、皆無に近いみたいだし、当然だろうけど。
……そうだ。未優、君は“歌姫”になりたいって考える人が、どれだけいるか、知ってる?」

チーズケーキを口に放り込んでいた未優は、首を横に振った。薫の質問の意図が解らない。

「君は、テレビで“舞台”を見て“歌姫”という存在を知ったって言ってたよね。
けど、いま現在の“歌姫”達は“混血種”か“異種族間子”な訳だから、“劇場”に所属するまで、その存在自体を知らなかったはずなんだ。
なぜって───」

そこで薫は、声を落とした。哀れむように。

「彼女達は生活のために、親兄弟によって“劇場”に預けられるから。つまり……売られてくるって、こと」
「売られるって、そんな……!」

未優は言葉を失った。にわかには信じがたい話だ。薫はそんな未優の様子に苦笑した。

「うん……。未優や僕、“純血種”の住んでいる世界では、信じられないような話だよね。
でも、事実なんだ。そうしないと、生きていけないから」
「生きていけない……?」

意味がわからない。そんな切実な世界が、この世にあるなんて。