留加は響子に向き直った。真っすぐに見返して、答える。

「おれは、彼女のために弾くと決めている。彼女が望むなら弾くし、望まないなら……それまでだ」
「満点じゃないね。お嬢ちゃんの方から、お前さんを突き放したりはできないだろうさ。

つまりは、アタシが心配してるのは、そこだよ。お前さんの、意思だ。
お嬢ちゃんと一生やってゆく気概はあるのかってコトだ。向き合って、逃げずにやっていけるのかってコトさ」
「……彼女と共鳴する時間は、手放したくない」

かすれる声音に、留加の情熱が読みとれ、響子は満足する。

「だったら、逃げなさんな。お嬢ちゃんから向けられる想いからも、自分が抱く感情からも。
それがお前さん達を導く(しるべ)となるはずだからね」

留加は目を閉じた。
……できるだろうか、自分に。彼女からも、己からも、逃げずに向き合うことが。