「人並み以上の情を持ち合わせていんのに、それを表現するのがヘタな血筋だ。お前さんの性質は、それが顕著に表われてるよ。

──さっきのは、予防線ってヤツかい?
“異種族間子”の知り合いがいるらしいね。つらい現実を知っているからこそ恋愛には慎重にならざるを得ないか」
「あなたには、関係のないことだろう」

強い口調で留加が切り返してくる。思った通りの反応に、響子は髪をかきむしった。

「……あのお嬢ちゃんが“歌姫”にならないっていうなら、その通りさ。だがね、その可能性は極めて低いだろうよ。
お前さんは、お嬢ちゃんとやっていくことになるだろう。……避けて通れる道じゃないはずだ」

留加は答えない。だが、それが答えだ。

「うまく距離を保って、お互いがお互いを高められるなら、構わないさ。けど、そううまくゆくかねぇ。
お嬢ちゃんは、あの通りの直情型だ。中途半端な愛情は、かえって苦しめることになる。
……それでもって、あの才能は、つぶれるね」

面白くない気分で言って、響子は腕を組む。

恋愛が、良くも悪くも左右するタイプだ。うまく育ててやらなければなるまい。

「お前さん、そうなる前に身を引けるのかい? 他の“奏者”に、自分のあとを託せるんだろうねぇ?」

そのためには、このヴァイオリニストをどうにかしなければ。

「できないなら手を引いとくれ。あれは素直な子だ。お前さんに深入りする前に、別の“奏者”をつければ、案外うまくゆくだろうからね。
──返答は?」