しかし、そうではなかった。
留加は、「仕事」として、未優の“奏者”を務めあげただけだった──報酬を得るために。

きゅっと唇をひき結び、未優は支配人室を飛び出した。

(あたしは本当に……何も解ってなかった……!!)

考えてみれば、おかしな話だ。
街中で偶然出会った留加にひとめぼれして、次に会った時、彼は【なんの関心もなかった】自分に声をかけてきた。

そして、その次には、ためらわずに“奏者”を引き受けた。……あまりにも、未優に都合が良すぎる。

(全部、ウソっぱちだったんだっ……)

最初は足早に歩いていただけだったが、次第に速度が早まっていき、気づくと未優は、見知らぬ街を目的もなく駆けていた……。

†††††

「追いかけなくて、いいの?」

未優の背中を見送って、薫は留加に声をかける。

「絶対アレ、勘違いしてるよ?」
「……何をだ」
「君が自分の側にいるのは、ビジネスだけだって」
「……事実だ」
「ふーん、そう? なら、僕が未優を追いかけるけど、いい?」

いたずらっぽく笑って、薫は留加をのぞきこむ。冷たい眼差しが、薫を射る。

「君の自由だ。好きにすればいい」

薫は噴きだした。
……なぜ、気づかないのだろう。