響子の言葉に、未優はもう一度頭を下げた。
慧一は小さく息をついて立ち上がり、響子に対して短いあいさつを告げた。

留加は扉に向き直り、薫が未優に声をかけた時、慧一の携帯電話が鳴った。失礼、と、断りを入れてでる。

「……今、終わったところだ。……あぁ、すぐに向かう。必要書類はそろえてある。ここだと公用だから、三番ゲートに待機しろ。……頼む」

通話を終えると、慧一は響子に向き直った。

「すみませんが、こちらの公用モノレールを使わせていただきたいのですが」
「構わないよ。いま、秘書呼ぶから待っておいで」

響子の言葉に礼を返し、慧一は留加に声をかけた。

「例の契約は一時凍結ということで、了承してもらえるだろうか」
「あぁ、分かった」
「今日の報酬については、明日には指定の口座に入るはずだから、確認してくれ。
それと、すまないが、こいつをマロンタウンまで送ってやってくれ。……ついでに、ハエも追い払ってくれると助かるんだが」
「慧一。それを言うなら、ハ・チ、だよ。可愛い花の甘い蜜に誘われる、ハチ。
ハエじゃあ、未優までおとしめることになるじゃないか。言葉には気をつけてよね」
「……善処する」

薫の横やりに、留加は眉を寄せた。
……相変わらずの感覚に、ついていけない。
慧一も同様のようで、薫をいまいましげににらむと、呼ばれて来た響子の秘書と共に部屋を出て行く。

「行こうか」

それに続いて、留加は未優をうながした。すると、何か言いたげな、困惑した表情と目が合った。