「『禁忌』の自由恋愛は処罰の対象となっていますが、既婚者が『禁忌』に就いてはならない、とはありませんからね。
実際、数十年前に“第二劇場”にいた『禁忌』は、人妻でしたし」
「ありゃ『狐族』の“純血種”だったからだろ。……まぁ、反論材料にはなるだろうがね。
そのあたりの《知識》は、お前さんとこのが詳しいだろうし、アタシも心配してないさ。ま、いいようにやっとくれよ」
「恐れ入ります」
清史朗は微笑んで、深く頭を下げる。
シェリーもおもむろに、響子に一礼してみせた。
†††††
“女王選出大会”は、第四次審査まで行われる。
各審査ごとにテーマが出され、それに見合った演目をそれぞれが選び、“舞台”を行う。
テーマは、第一次審査のみ発表されていて、第二次からは、審査を通過した者に知らされるようになっていた。
未優はいま、第一次審査を控え留加と“第一劇場”の舞台袖にいた。
(なんか、シェリーさんみたいな人ばっかりだったな……)
さきほどロビーに集っていた各“劇場”の“歌姫”は、歳の頃は25、6で、スタイルも容貌も、皆、抜群に良かった。
(あたし、浮いてないかな……?)
場違いな所にいる気がして、未優はなんだか落ち着かなかった。
テーマは事前に通知され、充分な練習も積めた。あとは開き直って“舞台”を行えばいいと、解っているのだが……。
(あぁ、もうっ。考えたってしょーがない! ここまで来たら、やるだけやろう!)
「───落ち着かないのか?」
さすがに留加には見抜かれて、未優は素直にうなずく。
「うん、ちょっとだけ。慣れた舞台じゃないし……。
それに、みんな綺麗な人ばっかりで……なんて、気にしたって仕方ないよね!」
から元気に笑ってみせる未優に留加はふっと笑い返した。
「そんなことを気にしていたのか」
「そんなことって……そりゃ気にするよ! あたしだって、一応、女なんだからねっ」
思わずムッとして留加を見上げる。すると、留加の指先が、未優の頬に触れた。
「……大丈夫だ。君はとても可愛いし、魅力的だから」
優しい微笑みと共にささやかれた言葉に、未優の頭の中は、パニック状態となった。
(だだだ誰っ!? ダレ、この人ッ)
留加でない誰かが、留加の着ぐるみを身につけているのかもしれないと思った時、未優の名前が、大会の進行係に呼ばれた。
「あぁ、おれ達の出番だな。行こう」
「……留加、だよね?」
舞台へと歩きだした《疑惑の人物》に、未優はそんな問いかけをする。
黒髪のヴァイオリニストは、その青い眼で、射るように未優を見た。
「君の“奏者”が、おれ以外に誰かいるのか?」
《留加らしい》辛辣な物言いに、未優はようやくホッとする。留加だ。間違いない。
「ううん、あなた以外、あり得ない! ……今日もよろしくね、留加」
「よろしく、未優。ふたりで、良い“舞台”にしよう」
───そうして、新しい“舞台”の、幕が上がる。
【終】
このページをひらいていただき、ありがとうございます(*^_^*)
作者の一茅苑呼です。
『山猫は歌姫をめざす』
を最後までお読みくださった読者様、ありがとうございます。
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まだ読んでないよー、という読者様。
こちらは、現代の日本(本作中はヤマト国という架空名称ですが)を舞台にしたファンタジーです。
人間が獣に変わる種族が当たり前に暮らす社会。
裏設定ではノアの箱船後、人間のさらなる進化によって、人が獣化するという設定です(笑)
なので、純粋な人間はいません。
本文中はアンデルセンにまつわる逸話で軽く説明させてもらいましたが。
ここでも説明させていただくと、ベートーヴェンは『犬族』の混血種設定です(笑)
混血種、というのは、ここだけ読むとややこしいかもしれませんが。
『犬族』の説明でさせてもらうのが解りやすいかと思うので、一例を。
『犬族』の混血種、とは。
『ジャーマンシェパード』✕『シベリアンハスキー』※
ということになります。
※この『カッコ内』にいろんな犬種が入る訳です。
ちなみに、これは作中の重要人物、犬飼留加を例にとりました。
そして、名字は血統を指し示す──ということで『犬飼』は『ジャーマンシェパード』の血をひいている、というのが解る訳です。
……と、あまり説明しちゃうと、
「そんな面倒臭い設定、いらん!」
と思われるかもしれないので(笑)、そういう設定はあくまでも「おまけ」と思っていただいてオッケーです。
この作品の主題はザックリ言いますと。
「未優【主人公】という少女が歌姫になって頑張りながら成長する物語」
に、
「留加【片想いの相手】と慧一【お目付け役的存在の婚約者】と薫【物腰やわらかな肉食系】に囲まれた恋愛ファンタジー」
でもあります。
逆ハーは言いすぎではありますが、基本、登場人物には好かれる主人公なので、その点ではストレスフリーな話。
(私が意地悪な人間が本当に苦手なので……意味もなくいじめエピソードは基本的に書きません)
だって……世の中、ストレス感じること多いじゃないですか、ねえ?
物語のなかくらい、ストレス感じたくないですよ、対人関係……(苦笑)
なので、私が書く話って基本コミュニケーションのとれる人物しか出てきません。
口は悪くても言葉を尽くせば伝わる人間同士の話です。
話が通じない人間を相手にするのは現実だけでたくさんなので……(接客業ウン十年勤めてきた人間の心の叫び)。
そういう訳で。
話が長くなりすぎて、ここまでお読みいただけたかは謎ですが。
少しでも、この物語を楽しんでいただけたのなら、幸いです。
また違う物語でもお会いできますように。
2024.5.12 一茅苑呼