「あたしが《夜の客》しかとんないで、“舞台”あがんない主義だっての、あんただって解ってんでしょ!? 勝手に客のリクエスト、とってんじゃないわよっ!!」
「ですが、皆さん、さゆりさんの“舞台”も観てみたいとおっしゃるので……」
「そこをうまくかわして他のナイチンゲールに割り振るのが、あんたの仕事(やくめ)でしょ!?
ざっけんじゃないわよ、このバカ! くたばれっ!」

強烈な捨て台詞と共にバンッ、と、扉を叩きつけ、さゆりは去って行った。
慧一は何事もなかったかのように、カップを口元に運ぶ。

薫はしばらく黙っていたが、やがて沈黙に堪えきれずに口を開いた。

「……ねぇ、慧一ってさ……ああいうのがタイプなの?」

慧一はふっと笑って言った。

「調教のしがいがあるだろう?」
「…………未優、婚約破棄してもらえて、良かったね…………」


†††††


大机の前に並び立ったふたりを見て、響子は微笑んだ。

「そうかい。まぁ、いつかはこんな日が来るとは分かっていたが……まさか、よりにもよって『王女』を引き抜いていくとはね。さすがは『狼族』って言うべきかね?」
「……恩を仇で返すようで、申し訳ございません」

清史朗は恐縮して頭を下げる。