『少夜啼鳥』と『人魚姫』の“連鎖舞台”は、観客の投票の結果、『人魚姫』の再演となった。
つまり───“女王選出大会”に出場するのは、未優に決まったのだった。

「いつまで黙っておくつもり?」

従業員寮の慧一の部屋からは、本館と敷地外へと続く小道が見える。
そこを、ヴァイオリンケースを手にした黒髪の少年と、栗色の髪を腰まで伸ばした少女がふたり並んで歩いて行く。

「あいつは、少し尻を叩いてやるくらいが、丁度良いんだ。『女王』になれなくても“歌姫”でいられるだなんて知ってみろ。
とたんにモチベーションが下がって、一年でたどり着ける道を、五年はかけそうな気がするぞ」
「あぁ、それは……留加が気の毒だね」

窓辺に腰をかけた薫は、黒髪の少年を見下ろし、苦笑する。
未優が『禁忌』でいる限り、指一本触れるなというのが建前である。

「まぁ、あいつにかかずらってる時点で気の毒としか言えんが、本人が望んでいる以上、仕方ないだろう。
俺としては、できるだけ最短であいつに『女王』になってもらえると、ありがたいんだがな。……飲むか?」
「ミルクとお砂糖入れて。……あぁ、行っちゃった」

薫の視界に、もうふたりの姿は映らなかった。彼らは、大会の行われるゴールドシティへと、向かったのである。