「いいえ、ひとつだけ。……私は彼女を《女性として》は、見られなかった。
最後まで、《可愛い妹》でしかなくて……甘やかしてしまったようで、すみません」

泰造は失笑をもらした。

「……結果オーライということでよしとしようじゃないか。できの悪い娘に、よろしく伝えてくれ」
「───はい。本日はご鑑賞いただき、ありがとうございました」

片手を上げて立ち去る泰造を、慧一は頭を下げて見送った。


†††††


「あぁ、君。ちょっと、いいかな?」

泰造が去ったのち、各テーブルを回ろうとしていた慧一に、声がかかった。
『狼族』の“純血種”、狼原(おおかみはら)誠司(せいじ)だった。
一礼して、慧一はテーブルへと歩み寄る。

「はい、承ります」
「彼女……『禁忌』の未優さんだが、来年の一月に行われる“女王選出大会”に出場する予定は、あるのかな?」
「……おそらく、そうなるかと存じますが」

まだ客の投票の集計結果が出たわけではないが、昨日の“連鎖舞台”と今日の“連鎖舞台”の反響を考えれば、おのずと結果は導きだされている。

「そうか。
───昨夜の『少夜啼鳥』も、確かに良かった。
歌唱力、語り、踊りと……“主演歌姫”のふたりに、甲乙はつけがたかったよ。だがね」

狼原は、自らの胸を押さえて微笑んだ。