ここに来て、初めて泰造の顔に笑みが浮かんだ。

「……この議題を受けて、一族がどう動くかも、君なら読んでいるね? そして、私がいま、何を考えているかも」
「えぇ、もちろん」

不敵な微笑みに、泰造は言葉を重ねる。

「君は以前、政治家になる気はないと言っていたね? 自分には、向いてないと」
「いまも、そう思っております」
「では、事業の方ということになるね。猫山は、あまりその方面に向かない者が多いんだが、何か手は考えているのかね?」
「詳細はのちほど書面にしますが───未優を、広告塔に使います」

泰造は眉を上げた。廃嫡し、一族から追いだしておきながら、利用するというのか。

「彼女は、今は『禁忌』という陽のあたらない“地位”にいますが、いずれ……近い将来、『女王』になることでしょう。
その時、『山猫族』の“純血種”であることを《売り》に、事業の宣伝広告に《協力》してもらいます」
「……なるほど《君らしい》ね」

相づちをうって、泰造は立ち上がる。

未優の「夢」を守り、一族の未来(さき)を見据え、自分の「望み」を手に入れたこの青年を《養子に迎える》ことに、迷いはなかった。

「君に計算違いなど、なさそうだね」

面白そうに問う泰造に、慧一は苦笑いを浮かべた。