「君は……! 君は本当に、真顔でさらっと、非道いことを言ってのけるな……!」

泰造はあきれ果てて、物が言えなくなった。

なんてことだ。こんな男に危うく可愛い娘を差しだすところだった……。
彼の方から婚約を破棄してくれたことは、不幸中の幸いだ。

「未優は、《猫山の家》に必要のない人間です。
……少なくとも、ただの《女》としての価値は、イリオモテの血をひく娘というだけで、何もない。
あなたは『山猫族』の存続を憂えるが、それなら、ツシマに代わってもらえばいいだけのこと。
何も、『山猫族』の“血統”は、イリオモテだけではありませんしね。けれども───」

歓声と拍手が、ひときわ高くあがる。カーテンコールが行われていた。
未優の誇らしげな顔が、薄型の映像機に映しだされる。

「《ここでなら》、彼女は特別な人間になる。あなたも個人的な付き合いなどで、“舞台”をたくさん観てきているはず。
なら、解るはずだ。彼女が、いかに素晴らしい“歌姫”になる可能性を、秘めているかが」

強い口調で語る慧一を、泰造は驚いて見返した。眼差しにこめられた意志の光に、射ぬかれる。

ようやく泰造は、慧一の真意に気がついた。
……どうやら、自分の目に狂いはなかったようだ。たとえ、娘婿には向かなくとも。