ふいに、ヴァイオリンの音色が歌声に応えるように、高く澄んだ甘い優しさを含んで未優に届く。

留加を振り向きかけて、けれども未優は、ただその音色に同調するように、歌声をより澄んだ甘美なものへと変えていく───。


†††††


「……やってくれたな」

鳴り止まない拍手と歓声が響くなか、それらにかき消されそうなほどの低く苦々しげな声を、泰造は発した。

テーブルの上には、プログラムと、数枚の書類が置かれていた。
その文面のなかに『廃嫡』『素行不良』という文字が見える。

「未優は、当主の器ではありません。それはあなたが、一番よくご存じのはずでしょう?」
「しかし、あれは最後のイリオモテの(メス)だ。それを……廃嫡するなどと、君は……!」
「───確かに、未婚で若く……出産適齢期の女性は、彼女しかいません。しかし、女性がいないわけではない。
実際、私の叔母は、今、第三子を懐妊中ですし」

泰造は慧一に向き直った。にらみながら、告げる。

「我が一族に女が生まれる確率が少ないのも、君は知っているはずだ。誰かが(はら)めば良いということではない!」
「……それほど血筋にこだわるというのなら、よその“種族”でもやっている体外受精や顕微鏡受精にでも踏み切りますか。
もちろん、卵子の提供は、お嬢さんにお願いすることになるかと思いますが」