「……落ち着いているようだな」

留加に言われて、未優は改めてそんな自分を自覚する。動揺していた昨晩が嘘のようだ。

───きっと、初心にかえることができたからだと、未優は思う。

(先のことなんて解らない。でも、いま、あたしは“歌姫”でいる)

だったら、その名に恥じない“舞台”を務めあげよう。
ひとつ、ひとつ。でも、確実に───。

「だって、側に留加がいてくれるから。だからあたしは、最高の“舞台”をお客さんに観てもらえると思う」
「そうだな。君と共に奏でる音を、旋律を……“舞台”にして、届けよう」

留加の優しい微笑みに、未優は甘い痛みを抱えながら、舞台の中央へと歩み出た。