(だけど、このチャンスを逃して……次は、いったいいつ、『女王』になれるチャンスがやってくるんだろう……?)

二十歳(はたち)までの期限付き“歌姫”の未優にとって、例えわずかな可能性であったとしても、『女王』になれるかもしれないこの機会は逃せなかった。

綾に胸を借りるどころではない。その綾の上をいき、さらにそのまた上を、めざさなければならないのだ───。

「思いつめた音は、思いつめた響きにしかならない」

ポツリと留加が言をもらす。

未優は涙をぬぐって、留加を見返した。青い瞳は鏡のように、真っすぐに未優を映しだす。

「君の心が今のように窮屈なままでいたら、君の歌声も、聴く者に気詰まりな感じを与えるだろう。
───君はそれを、望むのか?」

未優は、首を強く横に振る。そんな仕打ちを、お金を払って来てくれた人に対して、できるわけがない。

「そうだな」

うなずいて、留加は微笑んだ。テーブルに置かれた未優の片手に自らの片手を重ねる。

留加の長くしなやかな指を、未優は驚いて見つめた。

「君の歌声は、優しくてあたたかい。人を惹きつけて、その先にある希望を見せてくれる。
それはとても、尊いことだ───人に、望みを与えるということは」

留加の指が、未優の片手を包むようにして握りこんだ。