未優が過去に読んだことのある物語でも、その愛の深さゆえに、相手を(あや)めてしまうものもあった。

つまり───。

(生きていて、欲しかったんだ。生きて、幸せになって欲しかった)

あまりにも、献身的な愛情だ。とても自分には、真似できない。

ふたたび未優が溜息をついた時防音室に留加が入って来た。

「……すまない。待たせたな」
「ううん。
それより、ごめん。まだ“解釈”が進んでないの」

ヴァイオリンを取り出す留加に未優が沈んだ声で答える。

そうか、と、短く相づちをうち留加は言った。

「それなら、君の聴きたい曲を弾こう。何がいい?」
「えっ……」