シェリーは真顔になった。訊いてはならないことを訊いてしまったのかと未優はあせったがあとの祭りだ。
ややしてシェリーは、あでやかな笑みを浮かべ答えてくれた。

「あなたに望むものがあるように私にも……望みが、あるからよ」


†††††


“歌姫寮”の屋上は通常、立ち入り禁止である。数十年前に飛び降り自殺者が出たためだ。

しかしシェリーは、涼子と懇意であるために、そこへ続く扉の合鍵を従業員以外で唯一、手にしていた。

夜空には星が小さく瞬き、シェリーを見下ろしている。空気が澄んでいて、よく見える星空は、彼女のお気に入りだ。

「こちらにいらっしゃいましたか」
「あら。私、今日は久々のオフのはずよ?」

“舞台”も、夜の「接客」も。スケジュールを管理している彼がそれを知らないはずがない。

「えぇ。だから来ました」
「そう。何しに?」
「《また『女王』への挑戦を断られた》のは、なぜですか?」

シェリーは笑った。その質問は、これで今日、二度目だ。

「秘密」

人差し指を唇に立て、シェリーはいたずらっぽく清史朗を振り返る。

ふっ……と清史朗は、微笑んだ。