「だけど、それって」
「甘いわね。そんな綺麗ごと、通用するような世界じゃないわ」

ぴしゃりと自分の中での迷いを指摘され、未優はどきっとする。

シェリーだった。未優を見据えて、近づいてくる。

「あなたは『女王』になりたいんでしょ? 『女王』が唯一無二なのは知ってるわね? それはつまり、数多(あまた)の“歌姫”を押し退けて、蹴落とすことを意味するわ。
本人の意識はどうであれ、ね。そのくらいの覚悟をもって、臨みなさい」
「シェリーさん……」

うわ、迫力ある~……と、愛美が未優の後ろに隠れながらつぶやく。未優は息をのんで、そんなシェリーを見返した。
すると、シェリーは瞬間的に表情をくずし、くすっと笑った。

「……なんてね。“女王選出大会”への出場を辞退した私が言っても、説得力はないかしら?」
「いえ、そんなこと……!」

未優は首を振った。シェリーの言うことは、もっともだと思ったからだ。

「それなら、良かったわ。今回、私は休演させてもらうわけだから、あなたさえ良ければ、また一緒に練習しましょうね」

やわらかな笑みを向けられて、未優は一瞬、ぽやーんとなりかけたが、すぐに気になっていたことを訊いてみた。

「あのっ、シェリーさんは、どうして『女王』になる気がないんですか?」