「綾さんはさ~、そりゃ美人だし語りも上手いよ? だけど、いっつも不機嫌そうっていうか~。
能面女! って感じで、表情がねぇ~。まぁ“歌姫”の“舞台”は表情あんま関係ないっちゃ、ないんだけど」

(……能面女……)

愛美の言いぐさに、ふと綾の顔を思いだす。涼しげな美人だ。

しかし、愛美の言うように、常にピリピリとした空気を身にまとっていて、近寄りがたい。
「嫌い」と言われた一件を抜きにしても、お世辞にも愛想がいいとはいえなかった。

「ねっ? だから未優、あの綾さんに、いっぺんギャフンっていわせてやんなきゃ!
世の中とんがってばかりだと、誰にも相手にされなくなるってね」

未優は困ってしまった。

確かに、綾との競い合いの場に出ることには、納得している。
だが、相手をやり込めようとか相手の上を行こうとは、正直思っていなかったからだ。

「あのね、愛美。あたし、別に綾さん負かしてやろうっていう気持ちは、ないんだ。
あたしはあたしのできることをして、その上で、お客さんを喜ばせることができたらいいなって、思ってる」

自分にできることなど、たかが知れている。

歌うこと、踊ること。それが、未優が今まで身につけてきたものだ。
それを“舞台”で表現する。結果は、あとからついてくるもの───。