「どちらも「報われない片想い」の話ね。
“連鎖舞台”である以上“主演”を張るあなた達は、双方ともに見せ場を演じることになるわ。
つまり、今回の場合、どちらも第四幕ね。何か質問はあって?」
「その、“連鎖舞台”は、いつが初演になりますか?」
「今年最後の“連鎖舞台”になるわ」
「……十二月の末ってことですね」

頭のなかで、未優はおおよその日程を思い浮かべる。今からだと、一ヶ月ちょっとある。

(まさか『人魚姫』が()れるなんて、思わなかった)

大勢の観客のいる前で“歌姫”として。一番大好きな、演目を。

未優は両手を握りしめた。
不安がないと言ったら嘘になるが、それ以上に、演じてみたいという気持ちの方が強くなる。そんな未優を見ていた涼子が、微笑みながら言った。

「ねぇ、未優。あなた、自分の実力が、いま現在どの“地位”に匹敵するか、解っていて?」
「えっ……」

どきん、と、未優の心臓が脈打つ。

『禁忌』という特殊な“地位”は枠外で、他者との優劣など考えたことがなかった。

「あなたは前回の“連鎖舞台”の試験で『声優』三人と競って、『ラプンツェル』の第二幕を演じる権利を手に入れたわね。
それは、実力的には彼女たちと同等、もしくは、それ以上の実力を示したことになるわ。
慧一、顧客リクエスト数は、どう?」