未優はうつむいた。

気構えという点では確かにないかもしれない。
自分の“舞台”経験は、たったの三度。
それで、もう何年も“舞台”を踏んでいる綾と競い合うなど、もっての(ほか)だと思った。

だが───。

(自信がないなんて、認めたくない)

それは、自分から逃げる言い訳になる。
自信というのは、自分を裏付ける動機だ。自分をきずきあげてきた過去だ。
未優は、そういったものの価値を、自分のなかに確かに見出だしていた。

(留加が嘘をつくはずがない)

彼に認められた歌声を。
いつかできたらいいと、キャサリンが言ってくれた飛翔を。
たくさんのリクエストに支えられて実現した平日の“舞台”を───。

それらが、未優のうちにある自信を、確かなものとする。

未優は顔を上げて、響子を真っすぐに見据えた。

「すみません。いきなりのことで、心の準備ができてなくて……。
あたしに、綾さんと競わせてください! お願いします!」

勢いよく頭を下げると、一拍おいて涼子の声が耳に入ってきた。

「……演目は、あなた達ふたりが得意なもので、なおかつ共通のテーマであるものにしたわ。
綾が『小夜啼鳥(さよなきどり)』、未優、あなたは『人魚姫』よ」

未優は思わず顔を上げた。
……『人魚姫』を、“連鎖舞台”で?