「誰からも束縛を受けないということは、とても自由だ。誰に合わせるわけでも、誰に干渉されるわけでもないからだ。

おれは両親を亡くして、ずっとそうして生きてきた。

自由であるということは、同時に、孤独でもあるということだ。
自分のうちに成し遂げたい《何か》がある者であれば、それはそう(いと)うべきことではないだろう。そこへただ、突き進むことだけに没頭すれば、それでいい。

だが、おれには何もなかった。母が授けてくれた技術をもってして、己で身につけた技術をもってして。おれはただ、《弾くためだけに》弾いていた。ひたすらに。
それが、目的ではなく手段に過ぎないと、気づきながら。そうして、《目指すべきものもない》まま、高みへと向かっていた。
……そんな時、君の歌声と、出会った」

視線を下げて、留加は暗褐色の小さな獣を見つめた。

ビー玉を思わせる金色に緑がかった瞳が、ひとことも聞き逃すまいとするように、こちらを見上げている。

「おれは初めて、心から弾きたいと思った。自分のなかで、初めて、弾きたいという望みが生まれたんだ。
……初めからおれは、自分の望みのために弾いている。だから、君のために弾ければ、それでいい」