「謝らなくていい。お互い様だからな。……おれも、“変身”の際に、君に迷惑をかけた。
それより君は、おれの言ったことを、覚えているのだろうか」

じっと留加の青い瞳が見下ろしてくる。未優は、ためらいながら留加に伝えた。

『……これから先は、あたしだけのために弾くって、言ってくれたんだよね?』
「あぁ、その通りだ。君以外の誰かに弾くことはない」

はっきりと言い切った留加に、未優は落ち着かない気分になる。

未優は、自分がシェリーと留加のことを逆上し責めたことにより、留加が“奏者”としてそう答えざるを得ないと判断したのだろうと思ったからだ。

『あのね、留加。あたし、さっきは“変身”前で興奮してああ言ったけど、留加のヴァイオリンを独り占めできるなんて、思ってないから。
もちろん、“奏者”としては、あたしの専属でいて欲しいとは思うけど。
留加が、個人的な気持ちで誰かのために弾くことを止める権利は、あたしにはないって解ってるから』

留加は、未優が伝える《言葉》を、黙って聞いていた。
そして、合わせていた視線をそらし、カーテンが開いたままの窓の向こうの闇夜に目を向ける。