留加は一瞬、未優の姿を探しかけた。
が、すぐに、自分の足元からいくらも離れていない位置にいる、イリオモテヤマネコに気づく。

「夜分に、すまない」

未優は首を振った。テーブルの側の椅子に飛び乗ってそれから降りる。

留加に座ってくれと、伝えたつもりだった。留加は心得たように腰かけた。

「最初に断っておいた方がいいと思うから言うが……未優、君の《声》は、おれに届いてる」
『えっ、嘘っ、なんで……!?』

ぴん、と、『山猫』の尾が伸びる。

留加は苦笑した。

「君は以前、感覚系の能力が《人並み》しかないと言っていたな。おそらく、それが関係しているんだろう。
本来なら《人型》でも働くはずの《獣》としての聴覚や嗅覚の代わりに、獣の《声》を読みとったり、伝えたりする能力が発達しているんじゃないのか?
そういう《能力》をもつ者がいるというのを、どこかで聞いたことがある」
『……それって、思考だだもれってコト?』

獣の姿でも、留加と意思の疎通ができるのは有難いが、何もかもが伝わってしまうのは、避けたかった。

「聞こえてる感じとしては、おれに伝えようとしている《言葉》のようだから、君に伝えようとする気がなければ問題ないんじゃないか?」

未優は複雑な気分だった。

貴重な《能力》のように留加は言ったが、素直に喜べない。